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札幌高等裁判所 平成10年(ネ)416号 判決

控訴人

株式会社ザ・ノースカントリーゴルフ場(旧商号塚本リゾート開発株式会社)

右代表者代表取締役

泉澤正行

右訴訟代理人弁護士

髙田照市

高山征治郎

亀井美智子

中島章智

高島秀行

畑中鐵丸

石井逸郎

楠啓太郎

宮本督

吉田朋

被控訴人

栗尾秀樹(以下「被控訴人栗尾」という。)

外三名

右四名訴訟代理人弁護士

前田尚一

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの各請求を棄却する。

三1  被控訴人栗尾は、控訴人に対し、四八万二五五〇円及びこれに対する平成一一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人札幌いずみ産業は、控訴人に対し、五五万六一二五円及びこれに対する平成一一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人青木は、控訴人に対し、一四九万三九二五円及びこれに対する平成一一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

五  この判決は、第三項1ないし3に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文第一、第二、第四項同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  仮執行の原状回復及び損害賠償の申立て

1  主文第三項1ないし3同旨

2  仮執行宣言

四  仮執行の原状回復及び損害賠償の申立てに対する答弁

控訴人の申立てをいずれも棄却する。

第二  当事者の主張

(預託金返還等請求について)

一  請求原因

1 控訴人の事業内容等

控訴人は、預託金ゴルフ会員制事業を営む会社であるが、後記4の営業譲渡を受ける以前は事業主体の塚本産業株式会社(以下「塚本産業」という。)の業務総代行として、右営業譲渡を受けた後は自らが事業主体として、平成二年七月二七日に開場した北海道千歳市蘭越二六所在のゴルフ場「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ」(以下「本件ゴルフ場」という。)を開場前の準備段階から継続して管理、運営している。

2 ゴルフ会員契約の締結

(一)(1) 高木正(以下「高木」という。)は、昭和六三年一〇月一九日ころ、塚本産業との間で、本件ゴルフ場につき、次の内容のゴルフ会員契約を締結した。

① 会員番号   第〇〇四〇号

② 保証金    四五〇万円

③ 返還据置期間 一五年

④ 入会金    五〇万円

(2) 被控訴人栗尾秀樹は、平成五年四月二三日ころ、高木からゴルフ会員権を代金五五〇万円で譲り受け、高木の右ゴルフ会員契約上の地位を承継した。

(二) 被控訴人株式会社札幌いずみ産業(当時の商号・有限会社札幌いずみ産業)は、昭和六三年一〇月一九日ころ、塚本産業との間で、次の内容のゴルフ会員契約を締結した。

① 会員番号

第〇四二四号、第〇四二五号

② 保証金 合計九〇〇万円

③ 返還据置期間 一五年

④ 入会金 一〇〇万円

(三) 被控訴人関谷眞理は、平成元年六月一〇日ころ、塚本産業との間で、次の内容のゴルフ会員契約を締結した。

① 会員番号 第〇四八九号

② 保証金 九〇〇万円

③ 返還据置期間 一五年

④ 入会金 一〇〇万円

(四) 被控訴人青木由美子は、平成元年六月一五日ころ、塚本産業との間で、次の内容のゴルフ会員契約を締結した。

① 会員番号 第〇四九一号

② 保証金 九〇〇万円

③ 返還据置期間 一五年

④ 入会金 一〇〇万円

(以下、高木及び被控訴人ら(被控訴人栗尾を除く)と塚本産業との間の右各ゴルフ会員契約を「本件会員契約」という。)

3 本件会員契約の債務不履行

(一) 塚本産業は、本件会員契約を締結するに当たり、会員及び会員の同伴した者(但し、同伴者は、平日は三名、土曜・日曜・祝日は一名のみに限定される。以下、この同伴者が限定されることを「特別ゲスト枠」という。)のみに本件ゴルフ場施設を利用させ、会員は、本件ゴルフ場施設を利用するのに一切スタートの予約の必要がなく、到着次第スタート申込順に利用することができる(以下「予約なしのプレーシステム」という。)旨約した(以下、特別ゲスト枠及び予約なしのプレーシステムを併せて「本件各システム」という。)。

(二) 本件ゴルフ場で採用された予約なしのプレーシステムは、北海道では当時唯一のものであり、塚本産業は事業主体として、控訴人は業務総代行として、他のゴルフ場との差別化を図るため、本件ゴルフ場をメンバー最優先の名門コース、真のメンバーズクラブたるべく、予約なしのプレーシステムを本件ゴルフ場の中核的な運営システムとして位置付けていた。そして、塚本産業及び控訴人は、このような本質的な運営システムである予約なしのプレーシステムを維持していくため、会員及び特別ゲスト枠によって限定された会員関係者にだけ本件ゴルフ場を利用させることにした。

被控訴人らはいずれも、予約なしのプレーシステムによる本件ゴルフ場の利用の便利性を得ることと、このシステムによって担保されるメンバー最優先の名門コースの会員権のステイタス性を得ることを目的として、本件会員契約を締結し、または会員権を譲り受けたものであって、予約なしのプレーシステムの維持は本件会員契約の内容となっているものである。

(三) しかるに、塚本産業及び控訴人は、平成五年度に特別ゲスト枠を廃止し、一方的に、会員が同伴することができる者の数の限定を緩めてしまったほか、会員以外の者の施設利用を積極的に認めるようになり、平成五年八月一日から予約制度を採用することを決定し、会員が予約なしに本件ゴルフ場施設を利用することができなくなってしまった。

このような本件各システムの変更は、被控訴人らにとって、本件会員契約の内容である重要な基本的権利であり、契約の目的を達成するについて重大な利害関係を有する事項に対する重大な変更にほかならず、塚本産業及び控訴人が、被控訴人らの承諾を得ずに一方的にこれを変更することはできないものというべきであって、仮に理事会の決議を経たとしても、被控訴人らに対する債務不履行として本件会員契約の解除事由に該当するものというべきである。

4 塚本産業から控訴人への営業譲渡

(一) 控訴人は、塚本産業が事業主体であったときから業務代行として、本件ゴルフ場の管理、運営を行っていたところ、平成五年九月三〇日ころ、塚本産業から営業の譲渡を受け、本件会員契約上の地位を承継した。

(二) 仮に、控訴人が塚本産業との営業譲渡契約にもかかわらず、塚本産業の責任・債務を当然には引き継がないとしても、控訴人は、塚本産業の使用していた「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ」の名称を譲受け後も使用したものであるから、商法二六条一項により、本件会員契約に基づく債務の弁済義務を負うものというべきである。

5 本件会員契約の解除

被控訴人栗尾は平成七年四月二一日に、被控訴人札幌いずみ産業は平成六年一月一四日に、その余の被控訴人らは平成八年一二月一二日に、それぞれ控訴人に対し、ゴルフ会員契約を解除する旨の意思表示をした。

6 よって、被控訴人らは、控訴人に対し、契約解除による原状回復請求権に基づき、保証金及び預託金並びにこれらに対する契約解除の日の翌日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1、2は認める。

2 同3(一)は否認する。

本件会員契約締結の際、本件各システムにつき合意はしておらず、本件会員契約の内容とはなっていない。

同3(二)は争う。

同3(三)は争う。但し、塚本産業が、平成五年度から特別ゲスト枠を廃止し、同年八月一日から予約制度を採用したことは認める。

3 同4(一)、(二)は争う。

控訴人は、塚本産業から本件ゴルフ場施設の譲渡を受けたものであり、塚本産業の本件ゴルフ場の会員に対するすべての債権債務関係を承継したものではない。控訴人は、塚本産業の本件ゴルフ場施設に関する債務の返済を引き受けた上、会員に対し、年会費の支払を条件として本件ゴルフ場を利用させる債務及び預託金を所定の返還時期に返還する旨の債務を承継したにすぎない。

4 同5は認める。

三  控訴人の主張

1 本件各システムは塚本産業または理事会の判断により変更し得るものであること

仮に、本件各システムにつき合意がなされたとしても、会員が同伴することができるゲスト数や予約の要否はゴルフ場の管理、運営に関する事項であり、ゴルフクラブの業務執行に必要な事項として、理事会の決議により会社の同意を得て決定できると解すべきである。そして、特別ゲスト枠の廃止は、会員が楽しくゲームができるよう同伴者に関する会員の選択の範囲を広げることであるから、むしろ会員のプレー権を尊重する制度であり、また、予約制度は、むしろ会員の優先的施設利用権を重視し、円滑に会員がスタートできるようにする制度であって、いずれも合理性がある。

2 解除権が発生しないこと

仮に、本件各システムが本件会員契約の内容となっているとしても、特別ゲスト枠の廃止や予約制度の採用によって被控訴人らのプレー権は侵害されておらず、本件会員契約の目的は達成されているから、控訴人の債務不履行はいまだ解除権を発生させるほど重大な不信行為とはいえない。したがって、被控訴人らは解除権を行使することができない。

3 黙示の承諾

被控訴人らは、予約制度が採用された後に複数回、予約制度を利用してプレーしている。また、被控訴人らが特別ゲスト枠の廃止について異議を述べたのは、特別ゲスト枠の廃止から約三年九か月を経過した平成八年一二月である。

したがって、被控訴人らは、特別ゲスト枠の廃止及び予約制度の採用について黙示の承諾をしたものである。

4(一) 被控訴人青木は、本件会員権を控訴人に担保として譲渡しているところ、担保権者である控訴人は解除権の行使を承諾していないから、被控訴人青木は解除権を行使することができない。

(二) 被控訴人関谷は、本件会員権を控訴人に担保として譲渡していたところ、その後右担保は消滅したものの、本件会員契約解除の意思表示をした当時は担保が存続しており、担保権者である控訴人は解除権の行使を承諾していないから、被控訴人関谷の解除権の行使は無効である。

(三) 被控訴人らの本件契約の解除の意思表示は催告なくしてなされたものであって無効である。

5 被控訴人らは、平成七年度から同一〇年度までの年会費の支払を怠り、その額は、被控訴人札幌いずみ産業が三六万五一一三円、その余の被控訴人らが各一八万一九一三円である。

控訴人は、平成一〇年九月二四日の第五回口頭弁論期日において、右金員と被控訴人らの預託金等返還請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  控訴人の主張に対する被控訴人らの反論

1 控訴人の主張1は争う。

本件各システムは、本件会員契約の内容として、本件ゴルフ場におけるプレー権の具体的内容、優先権の程度を具体的に確定するものであり、それ自体、本質的な制度として保障されるべき本質的・中核的な価値であって、これを維持すること自体に価値があるのであるから、それを変更することは、会員の基本的な権利関係に重大な影響を及ぼすものというべきであって、個々の会員の承諾を得ることなく、理事会の決議をもって変更を加えることはできないものである。

2 同2は争う。

本件各システムの内容は右のとおりであるから、それによるプレー機会の具体的な侵害の有無を議論することはそもそも意味がない。

3 同3は争う。

控訴人主張の程度で黙示の承諾を認めることは到底できない。

4 同4は争う。

被控訴人青木及び同関谷は、借入金の返済を完了し、控訴人主張の被担保債権は消滅しており、その時点で解除の意思表示の効力が発生している。

また、本件債務不履行は履行不能であり、催告の必要はない。

(仮執行の原状回復及び損害賠償の申立てについて)

一  申立ての原因

1 被控訴人栗尾は、原判決の仮執行宣言に基づき、控訴人が訴外支笏湖観光株式会社に対して有する分配金請求権につき差押命令及び転付命令を得て、平成一〇年一一月四日までに合計四八万二五五〇円を取得した。

2 被控訴人札幌いずみ産業は、原判決の仮執行宣言に基づき、控訴人が訴外株式会社札幌全日空ホテルに対して有する分配金請求権につき差押命令及び転付命令を得て、平成一〇年一一月四日までに合計五五万六一二五円を取得した。

3 被控訴人青木は、原判決の仮執行宣言に基づき、控訴人が訴外千歳国際ホテル株式会社に対して有する分配金請求権につき差押命令及び転付命令を得て、平成一〇年一一月四日までに合計一四九万三九二五円を取得した。

4 よって、控訴人は、民訴法二六〇条二項に基づき、被控訴人栗尾に対し四八万二五五〇円、被控訴人札幌いずみ産業に対し五五万六一二五円及び被控訴人青木に対し一四九万三九二五円並びにこれらに対する本判決の言渡しの日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  申立ての原因に対する認否

1 申立ての原因1のうち、被控訴人栗尾の取得金額は否認し、その余は認める。被控訴人栗尾が取得したのは四四万八三五〇円である。

2 申立ての原因2は認める。

3 申立ての原因3のうち、被控訴人青木の取得金額は否認し、その余は認める。被控訴人青木が取得したのは一二六万七五一五円である。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

第一  預託金返還請求について

一  請求原因1、2、5の各事実、及び塚本産業が平成五年度から特別ゲスト枠を廃止し、同年八月一日から予約制度を採用したことは、当事者間に争いがない。

そして、証拠(乙三)によれば、控訴人は、平成五年九月三〇日ころ、塚本産業から本件ゴルフ場の営業権につき譲渡を受けたことが認められ、これによれば、控訴人は、塚本産業の被控訴人らに対する本件会員契約上の地位を承継したものと認めるのが相当である。

二  被控訴人らは、本件各システムは本件会員契約の内容となっていたものであり、被控訴人ら会員の承諾を得ずに、特別ゲスト枠を廃止し、予約制度を採用したことは、債務不履行に該当する旨主張するので、この点について検討する。

1  右争いのない事実、後記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(一) 本件ゴルフ場は、昭和六〇年ころから、塚本産業が事業主体となって計画が進められ、控訴人が管理、運営等の業務の代行を担当して、平成二年七月二七日に開場した。本件ゴルフ場の業務執行に必要な事項は、塚本産業とゴルフ会員契約を締結した会員により構成される「ザ・ノースカントリーゴルフクラブ」(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の理事会が決議し、それに基づいて運営されることとし、昭和六三年一〇月に理事会が発足し、その事務局が控訴人の事務所に置かれた。(乙四、七、二〇)

(二) 塚本産業は、昭和六三年七月ころから、本件ゴルフ場の会員として縁故会員四〇〇名及び推薦会員二〇〇名を募集したが、高木及び被控訴人札幌いずみ産業は、右募集に応じて縁故会員となったものであり、被控訴人関谷及び同青木は、右募集に応じて推薦会員となったものである。(弁論の全趣旨)

右縁故会員や推薦会員の募集に際しては、「ごあいさつ」と題する入会案内書、コース概要、本件ゴルフ場の造成工事工程表、会員募集要項(案)、ゴルフ会員権申込予約書等が配付され、申込予約書による申込みがあった場合には本件ゴルフ場の会員契約が成立し、会員証、入会保証金預託証書、会則が申込者に送付された。(乙五の1ないし7、六、弁論の全趣旨)

右縁故会員の募集に際して配付された入会案内書(乙五の1)には、本件各システムについての記載はなかった。

(三) 塚本産業は、平成元年一〇月ころから、一般会員二〇〇名の募集をしたが(甲一)、その募集に際して配付された入会案内書(乙八)にも、本件各システムについての記載はなかった。

(四) 本件ゴルフクラブの会則(乙七)には、会員の権利として、正会員は、休業日を除くすべての日の開場時間内に本件ゴルフ場施設を利用することができること、平日会員は、平日の開場時間内に本件ゴルフ場施設を利用することができること(四条)、本件ゴルフクラブ主催の競技会、講習会等の諸行事に参加すること、公式ハンディキャップの査定を受けること、機関誌等の配付を受けること等の権利を有すること(六条)が定められているが、予約なしのプレーシステムについての定めはない。また、右会則には、ビジターの利用について、「会員が紹介し、又は同伴するビジターは、会社の定める一定の条件の下に、本ゴルフ場施設を利用することができる。」(一六条)と定められている。

(五) 平成二年一月ころ発行された本件ゴルフクラブの会員誌(甲一)には、本件ゴルフクラブの理事長の挨拶として、「メンバー最優先の名門コース“ザ・ノースカントリーゴルフクラブ”がいよいよオープンいたします。」、「会員の皆様方のステイタスにふさわしい真のクラブライフの実現に向け、今後とも会社と一体となって、あらゆる努力をしてまいりたいと考えております。」と記載され、事務局長の挨拶として、「名門ゴルフクラブを構築する努力をいたします。」と記載されている。

また、同年春ころ発行と推認される本件ゴルフクラブの会員誌(甲三)には、「メンバーとしての心得と事務局の方針」として、「当クラブは、真のメンバーズクラブとして、かたくなにメンバーだけしかプレーできないというクラブの姿勢を守ってまいります。………メンバーが同伴するゲストに限りプレーや食事が認められますが、………同伴ゲストは原則として平日三名、土・日・祝一名に限定。」と記載され、「プレー方式の事務局案」として、「スタートの予約は一切必要がありません。メンバーはどなたでもご到着次第で、スタート申し込み順が決定いたします。」と記載されている。

(六) 平成二年四月二七日に開催された本件ゴルフクラブの理事会で、事務局から、「同伴ゲストは、平日はメンバー一名に三名のゲスト、土・日・祭日はメンバー一名にゲスト一名と限定し、いずれも予約なしの先着順のスタートとする」旨のクラブ運営についての考え方が報告され、また、それまでに理事会で検討していたメンバーが年数回に限り規定以上のゲストを同伴できる同伴カードの発行は取りやめること、諸料金の設定等が決議され(乙一八、三一)、決議された事項については、同年六月一〇日付けの理事会ニュース(甲四の1、2)において各メンバーに報告された。

(七) 平成二年六月二九日付けの「クラブ・インフォメーション」(乙九)には、「ゲストだけのプレーは、一切認められません。メンバーが同伴するゲストに限り、プレー及び食事が認められます。メンバーが同伴できるゲストは、原則として平日は三名、土・日・祝日は一名に厳しく限定します。」、「メンバーはスタートの予約は一切必要がありません。メンバーはどなたでも到着次第で、スタート申し込み順が決定します。ですから、スタート時間を事前に指定したり、予約したりすることは一切受け付けられません」、「土曜日、日曜日、祝日にはプレーされるメンバーが多く、混雑も予想されます。スタートはあくまでも先着順ですから、お待ちいただく場合もあります」と記載されている。

(八) メンバーが同伴することができるゲスト数については、その増加を要望する会員が多くなってきたため、同伴ゲスト数や年間のゲスト枠総数が次第に広げられ、平成二年一〇月二〇日の理事会において、土・日・祝日のゲスト枠を二名(但し年間総数一〇名まで)とし、平成四年三月三〇日開催の理事会で、年間のゲスト枠の総数が一〇名から二〇名に拡大された。(乙二〇、三一)

(九) 平成三年八月には、控訴人から本件ゴルフ場の会員に対し、オープニング一周年記念正会員として五〇名の募集を行うので、推薦、紹介されたい旨を記載した文書が配付されたが、同文書には、募集の目的として、現行のメンバー予約なしでいつでもプレーを楽しむことができるシステムを今後も貫徹していくためである旨記載されている。(甲六、七)

また、同年一〇月のファミリー会員(平日会員)募集の際の入会案内書(甲九)には、「当クラブはメンバーシップによるゴルフクラブの本来在るべき姿を目指し、『メンバーのための、メンバーだけの………』という明確なコンセプトのもと、メンバーは予約なしでゆったりとプレーが楽しめ、メンバー同伴のゲスト以外はプレーできないシステムをかたくなに貫いております。メンバーの皆様にステイタスにふさわしいクラブライフを存分にお楽しみいただくことを当クラブのモットーとしております。」と記載されている。

(一〇) 本件ゴルフ場の開場後二年を経過した平成四年ころから、予約なしのプレーシステムについて、来場者が多い場合には待ち時間が長くなり、予定が立てづらいなどといった苦情が多くの会員から寄せられ、控訴人に対し、予約制度を採り入れることの強い要望も出されるようになった。しかして、平成五年四月七日開催の本件ゴルフクラブの理事会で、特別ゲスト枠を廃止し、土・日・祝日の同伴ゲスト枠を平日と同様に三名とすること、会員の要望により予約制度を導入することが決議され、同年八月一日から予約制度が採用された。(乙四、一九、二〇、三一、証人古屋勝)

2(一)  被控訴人らは、塚本産業は本件会員契約を締結するに当たり、本件各システムの採用を約した旨主張し、証拠(甲二〇、証人高橋功)中には、塚本産業は、被控訴人札幌いずみ産業に対して縁故会員としての募集をするに際し、本件各システムの採用を前提として勧誘した旨の記載及び供述部分がある。

しかしながら、本件各システムの採用が本件ゴルフクラブの理事会で正式に決定されたのは平成二年四月二七日であり、昭和六三年七月ころからの縁故会員の募集に際して配付された入会案内書(乙五の1)や平成元年一〇月ころの一般会員の募集に際し配付された入会案内書(乙八)には、本件各システムについての記載がないことからしても、右記載及び供述部分はたやすく採用することができず、少なくとも、右証拠(甲二〇、証人高橋功)によって、本件会員契約の締結に当たり、その内容として本件各システムの採用についての合意があったものと認めることはできない。

他に、被控訴人らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件会員契約の締結に当たり、塚本産業が本件システムの採用を約したことを前提として、特別ゲスト枠の廃止及び予約制度の採用が債務不履行に該当する旨の被控訴人らの主張は理由がないものというべきである。

(二)  もっとも、平成二年春ころ発行の本件ゴルフクラブの会員誌(甲三)には、事務局の案(方針)として本件各システムについて記載され、同年四月二七日開催の理事会において本件各システムの採用が正式に決定された後、同年六月一〇日付けの理事会ニュース(甲四の1、2)や同月二九日付けの「クラブ・インフォメーション」(乙九)等によって会員に報告されているが、本件ゴルフクラブの会則(乙七)には予約なしのプレーシステムについての定めはないこと、予約はゴルフプレーを行うに先立って要求される手続的な事項であり、ゴルフ会員権の中核的内容である優先的な施設利用権と直接的な関係を有するものではないこと、ビジターの利用について、右会則に「会員が紹介し、又は同伴するビジターは、会社の定める一定の条件の下に、本ゴルフ場施設を利用することができる。」と定められていることからすると、本件各システム自体は、本来、本件ゴルフ場の管理、運営に関する事項であると認められる。

仮に、本件各システムが、本件会員契約に付随するものとして、塚本産業あるいは控訴人において遵守するべき側面を有しているとしても、予約をすることはわずかな労力でなし得ることであって、会員に格別の負担を強いるものではないこと、我が国のゴルフ場では予約制度はごく一般的なものであること(このことは弁論の全趣旨により認める。)、予約制度の採用及び特別ゲスト枠の廃止によって、本件会員契約に基づく優先的な施設利用権が特に阻害されたことを認めるべき証拠はないこと、予約制度の採用、同伴ゲスト数の増加は会員の要望でもあったことからすると、予約制度の採用及び特別ゲスト枠の廃止が、本件会員契約の解除をなし得る程度の債務不履行に該当するとは認められない。

(三) 被控訴人らは、予約なしのプレーシステムによる本件ゴルフ場の利用の便利性を得ることと、このシステムによって担保されるメンバー最優先の名門コースの会員権のステイタス性を得ることを目的として、本件会員契約を締結し、または会員権を譲り受けたものであって、予約なしのプレーシステムの維持は本件会員契約の内容となっているものである旨、本件各システムは、本件会員契約の内容として、本件ゴルフ場におけるプレー権の具体的内容、優先権の程度を具体的に確定するものであり、それ自体、本質的な制度として保障されるべき本質的・中核的な価値であって、これを維持すること自体に価値があるのであるから、右制度を、個々の会員の承諾を得ることなく、理事会の決議で変更することはできない旨主張する。

前記認定の事実によれば、塚本産業あるいは控訴人は、本件ゴルフ場を名門コースとすることを目指し、その一環として本件各システムを採用したものと認められるが、前記のとおり、本件各システムが本件会員契約の内容として合意されたものと認めることはできない。そして、仮に、本件各システムが、本件会員契約に付随するものとして、塚本産業あるいは控訴人において遵守するべき側面を有しているとしても、ゴルフ場のステイタスは種々の要因によって形成されるものであるところ、本件各システムの採用が正式に決定されたのは本件ゴルフ場の開場前であって、ゴルフ場としての評価も未知数であったこと、本件各システムについても、ゴルフ場としてのステイタス形成にどの程度寄与するものであるか必ずしも明らかであったとはいえず、現に、本件ゴルフ場の開場後三年で、会員の要望により、特別ゲスト枠が廃止され、予約制度が採用されていることからすると、被控訴人らの思惑ないし目的はともかくとして、会員間には、本件各システムは、その変更が会員にとって特段の不利益をもたらすような重要な価値を有するものとして認識されていなかったものと認められ、ゴルフ会員契約において保障されるべき本質的・中核的な価値を有するものとまでは認められない。

したがって、被控訴人らの右主張は採用することができない。

三  以上のとおりであって、被控訴人らの預託金返還等請求は理由がない。

第二  仮執行の原状回復及び損害賠償の申立て

一  申立ての原因1のうち、被控訴人栗尾が原判決の仮執行宣言に基づき、控訴人が訴外支笏湖観光株式会社に対して有する分配金請求権につき差押命令及び転付命令を得たこと、これにより四四万八三五〇円(平成一〇年一〇月六日請求分の三万四二〇〇円を除いた額)を取得したことは、当事者間に争いがない。

そして、証拠(乙三二、三三の5)によれば、被控訴人栗尾は、本判決言渡しまでに右平成一〇年一〇月六日請求分の三万四二〇〇円を取得するものと推認される。

二  申立ての原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三  申立ての原因3のうち、被控訴人青木が原判決の仮執行宣言に基づき、控訴人が訴外千歳国際ホテル株式会社に対して有する分配金請求権につき差押命令及び転付命令を得たこと、これにより一二六万七五一五円(平成一〇年一一月二日請求分の二二万五六七五円等を除いた額)を取得したことは、当事者間に争いがない。

そして、証拠(乙三二、三五の1ないし4)によれば、被控訴人青木は、右以外に七三五円を取得したことが認められ、また、本判決言渡しまでに右平成一〇年一一月二日請求分の二二万五六七五円を取得するものと推認される。

第三  以上によると、被控訴人らの各請求は理由がなく棄却すべきところ、これを認容した原判決は不当であるから取り消し、控訴人の仮執行の原状回復及び損害賠償の申立ては、いずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六五条を、仮執行宣言につき同法二五九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・濵崎浩一、裁判官・土屋靖之、裁判官・竹内純一)

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